こうした方法は、これまで不動産オーナーの相続・資産承継対策として広く活用されてきました。
その背景にあるのが、現金と不動産の「相続税評価額」の違いです。
現金や預貯金は原則としてその金額がそのまま評価される一方、不動産は路線価や固定資産税評価額などを基礎として評価されます。さらに賃貸不動産では、土地・建物について貸付けによる一定の評価減が認められることがあります。
そのため、現金を収益不動産へ組み替えることで、相続税評価額を圧縮できるケースがありました。
しかし現在、この考え方を取り巻く税制が大きく動き始めています。
令和8年度税制改正では、相続直前に取得した一定の貸付用不動産について評価方法を見直す方針が示されました。さらに、資産管理法人にも関係する「非上場株式」の評価方法についても、国税庁の有識者会議で見直しの議論が進められています。
今回は、不動産オーナーにどのような影響が考えられるのか、現在公表されている情報をもとに整理してみます。
令和8年度税制改正―相続直前の「収益不動産購入」に見直し
まず大きな変更となるのが、個人が所有する一定の貸付用不動産の相続税評価です。
これまで、不動産は市場価格より相続税評価額が低くなるケースが多く、さらに賃貸用であれば貸家建付地や貸家などの評価方法によって評価額が下がる場合があります。
この仕組みを利用し、相続が発生する前に現金を賃貸マンションやアパートなどへ組み替える相続対策も行われてきました。
しかし、実際の市場価格と相続税評価額との乖離が大きいケースがあることから、令和8年度税制改正では、その評価方法が見直されることになりました。
財務省の「令和8年度税制改正の大綱」では、課税時期前5年以内に、対価を伴う取引によって取得または新築した一定の貸付用不動産について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する方針が示されています。
また、課税上の弊害がない場合には、取得価額を基礎に地価変動などを考慮して算定した価額の80%相当額によって評価できるとされています。
この見直しは、令和9年(2027年)1月1日以後の相続等により取得する財産の評価から適用される予定です。
つまり、これまでのように
という方法については、今後その効果が限定される可能性があります。
今回の改正は、単に「不動産を使った相続対策ができなくなる」というものではありません。
重要なのは、「相続直前に不動産を購入して評価額を下げる」という短期的な対策が難しくなるという点です。
今後は、不動産をいつ取得するのか、どの程度の期間保有するのか、賃貸経営によってどの程度の収益を生み出すのかなど、より長期的な視点から資産承継を考える必要があります。
次に議論されているのが「非上場株式」の評価
そして、不動産オーナーにとってもう一つ注目しておきたいのが、非上場株式の相続税評価です。
特に、
- 「資産管理法人で賃貸マンションを所有している」
- 「法人で複数の収益不動産を保有している」
といった不動産オーナーにとっては、今後の議論を注視する必要があります。
国税庁では2026年4月、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を設置し、非上場株式の相続税評価について検討を開始しました。2026年8月20日には第5回会議が開催されており、現在も議論が進められています。
背景の一つには、現行制度において評価方式によって評価額に差が生じることや、近年の経済・金融環境と現在の評価方法との関係などについて検討の必要性が指摘されていることがあります。
資産管理法人を持つオーナーには、どんな影響が考えられる?
現時点では、具体的な改正内容は決まっていません。
そのため、「資産管理法人の株式評価が必ず上がる」と考えるのは早計です。
一方で、非上場株式の評価方法そのものが見直されれば、不動産を保有する資産管理法人の株式評価にも影響が及ぶ可能性があります。
たとえば、賃貸マンションやテナントビルを法人で所有している場合、その法人には、
- 保有している不動産
- 預貯金などの金融資産
- 借入金などの負債
- 賃料収入や利益を生み出す事業
などがあります。
こうした企業の実態と株式の相続税評価との関係が今後どのように整理されるのかは、資産管理法人を活用している不動産オーナーにとって重要なポイントです。
これまで有効だった相続・事業承継対策についても、制度変更の内容によっては、あらためて検証する必要が出てくる可能性があります。
2つの動きに共通するのは「実態との乖離をどう考えるか」
今回注目したいのは、「貸付用不動産」と「非上場株式」という別々の制度だけではありません。
その背景にある考え方です。
令和8年度税制改正では、貸付用不動産について、市場価格と相続税評価額との乖離を踏まえた評価方法の見直しが示されました。
一方、非上場株式についても、評価方式間の乖離や評価制度のあり方などが議論されています。
つまり、これからの相続・資産承継では、
「評価額をいかに下げるか」だけではなく、「資産そのものをどのように次世代へ承継するか」
という視点が、これまで以上に重要になると考えられます。
「制度が変わってから考える」ではなく、今の資産状況を確認する
今回の税制改正によって、不動産を活用した相続対策そのものが否定されたわけではありません。
収益不動産には、賃料収入を生み出しながら長期保有できることや、次世代へ資産として承継できることなど、本来の資産価値があります。
だからこそ今後は、
「相続税評価額が下がるから不動産を買う」という発想だけではなく、
「どの資産を、誰に、いつ、どのような形で承継するのか」という全体設計がより重要になっていくと考えられます。
特に、複数の収益不動産を所有している方や資産管理法人を活用している方は、一度、
- 個人と法人のどちらで不動産を保有しているか
- 不動産をいつ取得したか
- 今後、誰に資産を承継する予定なのか
- 法人株式の評価額は現在どの程度なのか
- 現在の相続対策が制度改正後も有効なのか
といった点を整理しておくことが重要です。
まとめ――これからの相続対策は「節税」から「資産承継の設計」へ
相続税を取り巻く環境は、少しずつ変化しています。
令和8年度税制改正では、相続直前に取得した一定の貸付用不動産について評価方法の見直しが行われます。
さらに現在は、非上場株式の評価についても有識者会議で検討が進められています。
制度の詳細が決まってから対策を始めるのではなく、まずは現在の資産構成や不動産の保有状況、法人株式の評価、将来の承継方針を把握しておくことが大切です。
当社では、不動産の管理・運用という立場からオーナーさまの資産状況を整理し、必要に応じて税理士などの専門家と連携しながら、今後の資産承継についてサポートいたします。
- 「今の相続対策はこのままでよいのか」
- 「個人所有と法人所有を今後どう考えればよいのか」
- 「所有不動産を次世代へどのように引き継ぐべきか」
気になる点がございましたら、お気軽に当社担当者までご相談ください。
本記事は2026年9月時点で公表されている情報をもとに作成しています。税制・評価方法等は今後変更される可能性があります。また、本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の税務判断を行うものではありません。具体的な相続・贈与・事業承継については税理士等の専門家へご相談ください。
出典
