建物火災は、ひとたび発生すると入居者や利用者だけでなく、消防・救助活動にあたる方々を含め、多くの人命に関わる重大な事故につながります。
建物の安全性を確保するためには、消防設備を適切に維持することはもちろん、避難経路や防火区画、建築設備、防火設備など、建物そのものの安全性を日頃から確認しておくことが重要です。
こうした建物の安全性を確認する制度の一つが、建築基準法第12条に基づく「定期報告制度」です。
大阪府では、2021年12月に大阪市北区で発生したビル火災を契機とする建築基準法施行令等の改正を受け、2025年4月1日から「事務所その他これに類する用途に供する建築物」の定期報告対象を拡大しました。
今回の改正によって、これまで定期報告の対象外だった比較的小規模な事務所ビルについても、新たに対象となる可能性があります。
オーナーさまにとっても、ご所有の建物が対象となっていないか、一度確認しておきたい制度改正です。
そもそも「定期報告制度」とは?
建物は、完成した時点で安全であれば、その状態がずっと続くわけではありません。
年月の経過による建物や設備の劣化、テナントの入れ替わりや改修工事などによって、避難経路や防火区画、設備の状態などが変化していることもあります。
そこで建築基準法では、一定の建築物や建築設備、防火設備などについて、所有者または管理者が専門知識を持つ資格者に定期的な調査・検査を行わせ、その結果を特定行政庁へ報告することを義務付けています。
これが「定期報告制度」です。
定期報告には、大きく次の3つがあります。
① 特定建築物定期調査
建物の敷地や構造、外壁、防火区画、避難経路などを調査し、建物全体の安全性を確認します。
② 建築設備定期検査
換気設備、排煙設備、非常用の照明装置など、建物に設置された設備について検査します。
③ 防火設備定期検査
防火扉や防火シャッターなど、火災発生時に延焼を防ぐための設備について検査します。
つまり定期報告は、単に「行政へ書類を提出するための制度」ではありません。
建物の劣化や設備の不具合などを早期に発見し、火災や事故が発生した際の被害をできる限り小さくするための、建物の安全管理における重要な仕組みです。
なぜ今回、対象が拡大されたのか?
今回の改正の大きな契機となったのが、2021年12月に大阪市北区で発生したビル火災です。
この火災を受け、国では「事務所その他これに類する用途に供する建築物」について、定期報告の対象として指定できる建築物の範囲を拡大するため、建築基準法施行令等が改正されました。
これを受けて大阪府でも、大阪府建築基準法施行細則を改正。2025年4月1日から、事務所等に使用される建築物について定期報告の対象規模が拡大されています。
これまで対象になっていなかった比較的小規模な事務所ビルについても、建物の構造や用途、規模によっては、新たに定期的な安全確認が求められることになったのです。
どのような建物が新たに対象になる?
今回の改正で特に確認しておきたいのが、比較的小規模な「事務所その他これに類する用途」の建物です。
基本的には、
「階数が3以上」で、かつ「事務所等の用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超える建物」のうち、一定の条件に該当するものが定期報告の対象となります。
具体的には、
① 3階以上の階に事務所等の対象用途があり、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超える建物
または、
② 地階に事務所等の対象用途があり、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超える建物
などが対象となります。
ただし、ここで注意が必要です。
「3階建て以上で事務所部分が200㎡を超えていれば、すべて対象」というわけではありません。
たとえば、3階以上の階にある対象用途部分の床面積の合計が100㎡以下の場合や、地階の対象用途部分が100㎡以下の場合、避難階以外の階を対象用途として使用していない場合など、条件によっては定期報告の対象外となります。
そのため、建物の階数や延床面積だけで判断するのではなく、「どの階を、どの用途として、どれだけの面積使用しているのか」まで確認することが重要です。
「特定建築物」「建築設備」「防火設備」で対象が異なる点にも注意
もう一つ、今回の制度改正で注意しておきたいのが、定期報告の種類によって対象範囲が異なることです。
新たに対象となる小規模民間事務所等については、「特定建築物定期調査」の対象となる一方、建築設備については一定の除外規定があります。
大阪府では、4階以下または床面積1,000㎡以下の「小規模民間事務所等」に設けられた建築設備について、昇降機や防火設備を除き、定期検査報告の対象外としています。
一方、防火設備については、その設置状況や用途、区画などによって報告の要否が異なります。
「建物が定期報告の対象になった=すべての設備について同じ検査が必要」というわけではないため、実際の対象範囲については専門家による確認が必要です。
対象になった場合、何をすればいい?
定期報告の対象となる建物は、専門知識を有する資格者による調査・検査を行い、その結果を定められた時期に報告する必要があります。
大阪府では、対象となる特定建築物について用途ごとに報告年度が定められており、建築設備や防火設備についても、それぞれ報告時期が設定されています。
また、新築・改築後に検査済証が交付された時期などによって、初回の報告が免除されるケースもあります。
そのため、行政から通知が届いた場合にはそのままにせず、
- 「自分の建物は何の定期報告が必要なのか」
- 「いつまでに報告する必要があるのか」
- 「どこまで調査・検査する必要があるのか」
を確認することが大切です。
定期報告は「義務」だけでなく、建物を守るための機会
定期報告の対象拡大によって、新たに点検費用などの負担が生じるオーナーさまもいらっしゃいます。
しかし、定期報告の本来の目的は、行政への報告そのものではありません。
たとえば、防火扉が正常に閉まらない、避難経路に問題がある、外壁や設備に劣化が進んでいる――。
こうした問題は、普段の建物管理だけでは発見しにくいことがあります。
平常時には大きな問題に見えなくても、火災や地震などが発生した際には、避難や消火活動を妨げ、被害を拡大させる要因となる可能性があります。
定期的に専門家の目で建物を確認することは、こうした「見えにくいリスク」を早期に発見し、必要な対策を講じる機会でもあります。
建物の所有者には、建物を適切に維持管理し、安全性を確保していく責任があります。
定期報告を単なる「法定点検のコスト」と捉えるのではなく、入居者や建物利用者の安全を守り、同時にオーナーさまの大切な資産を守るための予防保全の一つとして考えることが重要ではないでしょうか。
さいごに
今回の対象拡大により、これまで定期報告を行っていなかった事務所ビルでも、新たに報告義務が生じている可能性があります。
特に、3階建て以上の事務所・テナントビルを所有されているオーナーさまは、一度対象の有無を確認しておくことをおすすめします。
当社では、定期報告の専門家と連携し、対象建物の確認から調査・検査、報告書の作成・提出まで対応しています。
また、調査によって不具合や改善が必要な箇所が確認された場合には、単に「指摘事項」としてお伝えするだけではなく、緊急性や重要性を整理したうえで、適切な是正方法をご提案することも可能です。
なお、定期報告の対象となる建築物は、国の法令だけでなく、各特定行政庁による指定によって異なる場合があります。
そのため、大阪府以外に建物を所有されている場合も、
- 「大阪では対象だから他府県でも対象」
- 「大阪では対象外だから他府県でも対象外」
と一律に判断せず、建物所在地を所管する行政庁の基準を確認する必要があります。
建物の安全性を維持することは、入居者や利用者の命を守ることはもちろん、事故による損害や建物価値の低下など、オーナーさまの経営リスクを抑えることにもつながります。
今回の制度改正を、ご所有の建物の安全性について改めて確認する機会としていただければと思います。
