大規模修繕工事のテーマを決めてみた
竣工から18年が経過し、大規模改修工事を検討することになった当物件は、2LDKのファミリータイプと、1Kの単身タイプが混在する物件です。
近年、当物件周辺では新築賃貸物件の建設が相次ぎ、特に単身タイプの入居者獲得に苦戦を強いられる状況。
オーナーさまはそろそろ大規模修繕が必要な事は理解しつつも、多額な費用をかけても空室が埋まらず、修繕しても収益性が上がらないというのはなんとしても避けたいという気持ちです。
空室を埋める為には、まず入居者に選ばれる物件にする必要があります。
新築物件と単純に比較しても意味はありません。ただ、今弱みに見えている部分を改良すれば、アピールポイントにできるのではないかと考え、今回の大規模修繕のテーマを「弱みを強みに変える」に決定しました。
テーマから課題を抽出する
大規模修繕工事にテーマを設定するというのは、あまり聞かないことだと思います。
多くの物件が大規模修繕を検討する際、複数の修繕業者に相見積もりを依頼します。
依頼を受けた修繕業者は、現地で建物を確認、診断し、修繕の見積もりを提示することになりますが、こうした依頼時にテーマがあると、修繕業者に所有者が何を求めているのかを簡潔に伝えることができるので、考えが伝わっていないなどのミスマッチが起こりにくくなるので非常に有効です。
「弱みを強みに変える」をテーマとした当物件では、まず最初にオーナーさまと当社とで作戦会議を開きます。修繕後、勝ち残れる物件にするために必要な改善課題について意見交換し、ターゲットの再設定を行いました。

ターゲット設定から7つの改善ポイントを抽出する。
今までは単身タイプで、おおよその年齢ターゲットだけを設定していたところを、今回は、より明確にするために「20〜30歳の女性」と再設定。
ファミリータイプでも最終的に決定権をもつ「女性」をターゲットに設定。
両タイプ共に20〜30歳の女性の視点から当物件の弱みを明確にしていきます。
さらに過去の入居者からいただいていた意見や、この地域で求めらているポイントを現場の仲介営業マンから収集した情報をプラスしていきます。
こうして弱みの理解と入居者の要求ポイントとのギャップを明らかにして見えてきたのが、次の7つの改善ポイントでした。
1.ゴミ置場内に粗大ゴミが不法に捨てられる。
2.1階共用廊下側の外壁をよじ登れば、簡単に建物に侵入できる。
3.女性入居者が多くいるが、TVモニターホンではない。
4.宅配ボックスが古く、取出し時にエラーが多発、入居者のストレスになっている。
5.エントランス横の植栽の見栄えが悪く、猫が集まり不衛生。植栽の維持管理コストがかかる。
6.バルコニー側からの避難経路を増やした方がいいのではないか。
7.駐車場に無断駐車等があり、契約者とトラブルになることがあった。
この7つの改善ポイントを修繕業者に提出。建物診断結果に基づく修繕に加え、7つの課題を解決する為の修繕見積もりを依頼することに。
また同時に修繕項目が増えることから想定されるコスト高を防ぐために、工事を分離発注で進める準備を行い、コスト圧縮を図ります。

課題解決項目5つの決定
修繕業者から課題解決の為のプラス提案を受けた結果、従前の建物修繕項目に加え、次の5つの修繕を実施することに。
その1 1階共用廊下に「防犯スクリーン」を新設。壁をよじ登っての侵入を不可能に。
その2 防犯カメラを4台新設。ゴミ庫も映すようにし、その画像を1階エントランスにモニターで常時可視化し抑止効果を高めた。「防犯カメラ作動中」の掲示を行い、無断駐車の撲滅と粗大ゴミ不法投棄撲滅につなげる。
その3 全室TVモニターホンに交換。オートロック番号は個別設定可能な機種を選定しセキュリティー効果を高める。
その4 共用部照明をLED化。格段に照度を上げた。
その5 宅配ボックスを交換。利用者の不具合ストレスをなくした。
修繕後に表れた入居募集での変化
テーマ通り「弱みを強みに変える」工事を着手させることはできました。しかしそれだけで入居率や売上が上がる成果がでてくるわけではありません。
募集条件をどう変化させるか、その度合いを現場の反応を見て判断する必要があります。今回の工事によって改善したこと、強みに変化させた箇所を告知しつつ仲介店舗に周知の営業に回りながら変更決定します。
修繕前のファミリータイプの募集では、成約特典としてのキャンペーンを実施していました。入居者に入居月のフリーレントと営業マンに商品券をプレゼントするというものです。
これを修繕後の現場の反応を確認しつつ、家賃を2,000円アップ、広告料を減額、入居条件として退去時にハウスクリーニング30,000円を付加する条件に変更決定。
単身タイプでは、修繕前より賃料を1,000円アップ、礼金を1か月分プラスし、広告料を半額に設定変更し募集を開始しました。

修繕による入居率アップの成果
今回の大規模修繕による改善と、営業活動を兼ねた条件変更設定により予定通りの成果を生み出すことができました。
ファミリータイプでは、最終的にフリーレントの条件もなくし、変更条件で、退去日から60日で成約。
単身タイプでは、退去日から23日後には新入居の契約が完了。退去予定で室内を内覧することができない中で申込みが入り、外観や共用部のみを確認、室内は退去後に改めて内覧いただきました。
両タイプ共に、賃料増額、広告料を削減でも成約を勝ち取れる物件に変化させることができ、すべての空室の入居が決まり満室の成果をだすこどができました。
まとめ
大規模修繕には多額の費用が必要になります。だからこそ、ただ老朽化した箇所を修繕だけであったり、老朽化を遅らせるだけという発想では最良とは言えません。
この事例のようにテーマを決め、ターゲットを明確にして改善ポイントから課題解決の施工まで、勝つための大規模修繕なら投資の意味が大きくなります。
こうした大規模修繕実施の手法に興味があるようでしたら一度ご相談ください。