賃料査定の依頼
新築を計画中で、管理会社を探しているというマンションオーナーさまからの問い合わせです。
そのマンションは最寄駅から徒歩30分と距離ある立地ながら、大学の真横に位置し、その大学の学生がターゲットとなるわかりやすい物件です。
ターゲットが明確でブレがないだけに、とれる戦術は限られます。問い合わせいただいた内容から、戦略を立案するために賃料査定調査を開始しました。
学生生協の選択肢
オーナーさまは最初に当該大学の「学生生協」に管理の見積りを依頼。その見積内容の妥当性を確認したいというのが当社に相談された理由のひとつでした。
この地域のワンルームマンションは、ほぼ学生がターゲットになることから自ずと選択肢は限られ、管理委託先の候補のひとつに「学生生協」が入ってきます。
学生の紹介、斡旋に圧倒的な力を持った生協の場合、外部の宅建業者が管理する空室情報を学生には流さず囲い込むことが頻発します。当該大学の「学生生協」も同様に情報の囲い込みが為されるのは周知の事実です。
オーナーさまにとって、「学生生協」に委託した場合の囲い込みによるリスクと、「学生生協」を外すことによるリスクのどちらの影響が大きいのかを判断する必要があります。
生協との査定内容の差
まず、学生生協から出されていた設定賃料と当社で調査した賃料査定の結果を比較いただきました。
1階 | 2階 | 3階 | |
当社・賃料査定 | 65,000円 | 67,000円 | 69,000円 |
学生生協・提案賃料 | 60,000円 | 62,000円 | 64,000円 |
- ※共益費込みの金額
各階で2,000円ずつ上がる設定は同じですが、当社提示の方が「学生生協」の提案賃料よりも、各戸5,000円高い査定結果になりました。
当社提案が採用された場合、6室全て新入学生の入居で在学中は転居しないものと仮定すると、生協提示の賃料との差は、5,000円×6室=30,000円。12か月で年間36万円、4年間で144万円の売上に差が出ることになります。
数値だけ見ると当社に軍配が上がります。しかし学生生協からは提示賃料以上の設定をすると成約に至らないと明言されていたこともあり、オーナーさまにとって当社が提示する5,000円アップが実現可能なのかどうか、不安が隠せない状況でした。
生協との募集戦略の差
当社での募集で、学生生協と賃料5,000円の差がうまれる理由を明確に説明できなければ、管理受託が欲しいがための提案だと思われても仕方ありません。
今回の当社の査定内容と、学生生協のそれとの違いは大きく2つあります。
募集形態の差
まず、ひとつは募集のあり方の差です。
学生生協の仲介力が強いのは間違いないですが、生協に管理を委託すると、空室情報は他の仲介業者には流されない専任契約を覚悟する必要があります。申込窓口は学生生協の一社となり、当社の空室募集のあり方とは真逆になります。
当該大学は学生数が多いこともあり、学校周辺には仲介店舗が多く点在しています。当社は空室情報を抱えこむのではなく、周辺の全ての仲介店舗へ広く情報公開し募集をかけます。申込窓口は点在する仲介店舗の数だけ存在することになります。
申込窓口が、学生生協の一社限定募集での案内数と、周辺の仲介店舗、12社での案内数とを比較すれば、後者の方が断然案内数が増えます。
案内数は成約機会と捉えることができるので、機会を増やし、一定の成約率を維持することができれば成約数をコントロールすることが可能になります。

情報収集量の差
もうひとつは、マンション周辺の競合物件情報の収集量の差です。
賃料査定の際、直近での成約賃料や学生の目線、傾向などヒアリングを周辺の仲介業者の営業マンに行います。
【競合物件、直近の成約賃料】
立地 | 種別 | 階 | ㎡ | 間取 | 家賃(共込) | |
競合A | 駅徒歩22分 | 木造ハイツ | 1 | 26 | 1K | 63,000円 |
競合B | 駅徒歩23分 | 木造ハイツ | 2 | 26 | 1K | 65,000円 |
競合C | 駅徒歩17分 | 木造ハイツ | 2 | 25 | 1K | 64,500円 |
競合している物件の直近での成約賃料を見ると、生協の設定のように弱気になる必要がないことが見えてきます。新築の優位性を活かし、情報提供先を絞らず募集をかけ、内覧会など告知方法に工夫をすることで十分、成約数を確保し満室にすることは可能だと判断できます。
当社、提案賃料で成約が可能だと考える理由がここにあります。
さて、その成果は?
オーナーさまとしては、「学生生協」に管理委託することで一定の安心感の元、専任一本で賃料を抑えて戦うか、不安定要素はありながらも多数の仲介会社に募集を広げ、賃料を上げて戦うのかを比較した結果、当社での管理委託を決断いただきました。
賃料の差が生まれる理由と、募集手法の違いから案内数を増加させる戦略をご理解いただけた結果です。こうなれば、なんとしてでも成果をだすしかありません。「ほんとうに5,000円高い設定で成約に至るのか?」とオーナーさまの目線をひしひしと感じながら、提案条件で募集をスタート。
当社得意の仲介業者向け内覧会やキャンペーンを駆使し周知活動を徹底したこともあり、募集開始後1ヶ月で6室全部屋成約に至り、学生生協提案より5,000円高く、竣工前満室という最良の成果をだすことができました。

オーナーさまの決断ポイント
オーナーさまの一番の不安は、賃料を上げたことで満室にならずに4月に突入してしまうことにありました。競合資料などでその理由が明示されたことや、市場性や戦略をじっくり聞くうちにどちらがリスクが大きい選択かを考えられました。
全部で6室なので、そもそも空室リスクを過剰に恐れる必要がないこと、学生生協の専任であれば一定の安心感はあるものの、生協以外からの情報は遮断されてしまえば、今後直面する課題に対して適正な判断ができない方がリスクが高いことに気づかれたのが、決断のポイントといえます。
当社管理の場合、数多くの仲介業者から情報を仕入れ、その情報を精査することで、適正かどうかを判断することができます。逆に限られた範囲で、しかも一つの情報だけで決断することは間違いを犯す危険性が高くなります。
これからは、学生生協一択の選択は疑うことも必要です。学生数減少の影響もあり学生をターゲットとするマンションの空室が多くなり、勝たないといけない競合物件が増えています。
学生数が減少する中、学生マンションも生き残る戦略には広く情報を取得し緻密に対処する必要があります。学生をターゲットとした不動産経営でお困りの場合は一度当社までご連絡ください。一緒に戦略を考えさせていただきます。